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第64回質量分析総合討論会ワークショップ
「LC/MS の基礎と実際(メソッド開発編)」―安定した分析メソッドを作る―
MSSJ 会員の方は,下記より本ワークショップのスライド資料を総合討論会要旨と同様に閲覧できます.
総合討論会サイトのワークショップページ<http://www.mssj.jp/conf/64/program.html#workshop>へ
オーガナイザー(MSSJ企業プログラムWG ):
中村健道(理研) WG 代表
瀧浪欣彦(ブルカー・ダルトニクス)
窪田雅之(サーモフィッシャーサイエンティフィック
- 【1】企画のねらい
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- 幅広いMSユーザーの方々にご参加いただき,装置関連企業関係者を核としたツール提供者との間での双方向的議論,意見交換の場を通じて質量分析への理解を深める機会としていただく.
- 質量分析計の利用範囲は研究分野から食の安全や環境モニタリングなどのルーチン分析など多方面に拡大しているが,装置がブラックボックス化したことや使用者のバックグラウンドが理工学以外に広くなったため,装置を良い状態に維持出来ないほか,得られた結果を正しく評価出来ないケースが増えている.従来の質量分析の研究者が何を意識して装置を使用し,データを見ているのかを伝え,ブラックボックスの透明性を高め,より身近な装置とする必要がある.本企画では原理や理論を説明するのではなく,実際に体験している現象を題材にして解決策とその理由(ここで初めて理論的な説明は必要になる)について議論していく.
- 【2】企画内容:
- 「LC/MS の基礎と実際(メソッド開発編)」―安定した分析メソッドを作る―
- ルーチン分析ではチャンピオンデータではなく,長期間の安定性,多検体分析時の再現性,そしてメンテナンス前後の分析の妥当性などが求められる.このテーマにはサンプルの前処理方法からLC分離や安定性,MSのマトリクス効果から装置の汚れまで多くの要因が関係している.多くのルーチン分析ユーザーが,これらの問題の切り分けと対応に苦慮している現状を打開すべく,分析に精通している本学会関係者や機器メーカーの技術者等が日々行っているノウハウを,そこに含まれている技術的な解釈を交えて共有する.今回はメソッド開発の段階でユーザーが考慮すべき項目について議論する.ハード面ではLCからMSのイオン化,インターフェイス部分までを取り扱う.(アナライザ以降については次回に企画予定)
- 原理的な(基礎的な)ことと関連付けて議論する
- 感度の変動,低下要因を探る
メソッド開発の段階では同じサンプルを繰り返し測定し,分析メソッドの安定性,再現性,堅牢性を評価するが,この段階で感度が低下したとき,どのように問題を切り分け,対処していくのか? バイアルへの吸着や分解は無いか,MSの汚れは無いか,など・・・ MSの汚れの評価は各社が推奨する方法があるので,それらを解説できれば,ブラックボックスの一部が透明化されていくであろう.
- 実サンプルで感度が低下したらマトリクス効果なのか?
SRM分析時に感度が低下してもイオン化抑制とアダクトイオン生成によるプリカーサーイオンの減少を区別できない.イオン化抑制は脂質などの影響が大きく有機溶媒比率の高い移動相組成で出るが,後者はボイド付近の水リッチな条件で発生する.これを理解して,LCの分析条件を再検討するのか,前処理方法を再検討するのか,対処を選ぶ必要がある.
- サンプルの前処理は正しいのか?
除タンパク質の溶媒は? 除タンパクで十分な結果が出なかったら固相か液液抽出か・・・? このあたりは総合討論会に参加されている前処理製品のメーカー等も巻き込んだ議論が出来ることを期待している.
- 【3】企画内容の関連した質問・疑問等募集の結果
- アンケートは質量分析学会ホームページでの募集とともに、下記のリストにメールアドレスを登録されている方々にメールを用いて募集しました。ご協力いただきました水環境学会、協力メーカーの皆様にお礼申し上げます。
- 質量分析学会会員リスト
- 水環境学会MS技術研究委員会メーリングリスト
- 当企画協力メーカーのユーザーリスト
募集期間の1ヶ月で34個の質問、疑問が寄せられました。
寄せられたアンケートはサンプルの前処理方法から移動相やLCの分離モードの選択、イオン化のパラメータの最適化や意味まで、多岐にわたるものでしたが、それらの多くは分析結果が安定して得られないという事象をユーザーが試行錯誤で対処している過程から発生しているものでした。ワーキンググループのメンバー及びワークショップ協力者でこれらの質問を精査した結果、多くの方々が「マトリクス効果」として片付けられがちな事象に翻弄させられていることが分かり、今回のワークショップのテーマとすることになりました。ここで取り上げるマトリクス効果についてですが、本来、イオン化プロセスで発生する事象がマトリクス効果ですが、ここではイオン化の抑制、増強から、アダクトの生成、システムへの吸着などさまざまな要素を含んだマトリクス効果(広義のマトリクス効果)とし、ユーザーが事象の発生要因を理解し、問題を切り分けて対処できるようになることを目的としました。
そこで、さまざまなアプリケーション分野にユーザーを持ち、ノウハウを集積している装置メーカーに協力を依頼し、事例とその解釈、そして回避策を講演していただくこととしました。広義のマトリクス効果を前処理、LC、MSの3つの要素に分解し、各要素について講演していただきます。
講演終了後に、質疑応答を含むディスカッションセッションの時間をとりますので、皆様のご参加と活発な討論、議論を期待しています。
以下に寄せられたアンケートをご紹介いたします。
(広義のマトリクス効果に関する質問)- Matrix effectで困っています。modifierの濃度を高くすると影響が軽減されるでしょうか?modifierの濃度を高くすると、四重極が汚れたり、検出器の焼き付きが早まったりしそうで怖いです。
- 定量分析する際、ナトリウムアダクトがリッチです。そのようなanalyteを対象とする場合、プロトンアダクトではなくナトリウムアダクトをprecursor ionに選ぶべきでしょうか。ナトリウムの供給源が不安定な気がして心配です。それとも、ナトリウムイオンを少し入れるのが正解でしょうか?
- ギ酸などのmodifierの濃度を高くすると、MSの感度は上がるのでしょうか?下がるのでしょうか?analyteによるのでしょうが、どのように考えればよいか教えていただけると助かります。
- 検量線の高濃度側が飽和する場合と,イオン源の汚染によるイオン化の飽和を見分ける方法はありますか?マトリックス効果を抑制するには,固相抽出や希釈以外に方法はあるのでしょうか?
- 同じ化合物,同じマトリックス,同一LC条件で測定しているのに,同型MSで感度が10倍近く異なることがあります.原因として考えられることは何でしょうか?
- 特定のMSスペクトルのみ感度が落ちることはありますか?あった場合,原因は何でしょうか?
- バリデーション試験では問題が認められなかったが,実際の試料を測定するとイオンピーク強度の低下が認められた.
- 薬物を動物に投与する際に使用した投与媒体の影響により,イオンピーク強度が低下した.
- 異なる種類の動物に薬物を投与し,生体試料中濃度を測定したところ,イオンピーク強度が異なっていた.
- 正常動物に薬物を投与し,血漿中濃度測定を用いて定量したときは問題なかったが,病態モデル動物では,イオンピーク強度にばらつきが認められた.
- 感度向上のため,前処理時に濃縮したところ,かえって感度が低下した.
- ISに分析対象物の類縁物質を用いたところ,ISのイオンピーク強度が安定しない.
- 血漿中濃度測定では問題が認められなかったが,尿中濃度測定では,イオンピーク強度が低下した.
- surrogateについてです。H/D交換はどの程度気にすべきでしょうか。メチル基をD化した物質を使っていますが、濃度が減っています(実験が下手なのか分かりません)。
- アイソクラティックで定量値がばらつく。分析終了時にまだ保持されている成分あり、次の分析中に溶出してマトリクス効果が生じていたようだ。UV検出器では影響を受けない場合が多いので、検出器をUVからMSに切り替えたユーザーに多いトラブルだろう。
- 装置の設置環境や分析装置に由来するシロキサンに対する対策が重要。シロキサンはシリコーン樹脂製品、化粧品等に含まれており、特にナノLCではこの影響を受けてイオン化抑制が起こり、場合によっては全く分析出来ない期間が発生する等の影響がある。
- 定量分析する際、ESIの印可電圧を一定にして測定するのと、電流を一定にして測定するのでは、どちらがどのような理由で適切でしょうか?
- 分析対象サンプルによりガラス容器や樹脂、更にはコーティングの影響によりバックグラウンドやサンプル回収率に差が見られる。バイアル、セプタムの材質や形状が多種多様であり、どれを採用するか迷う。
- 塩基性化合物と無極性化合物を一斉分析する必要があります。バイアル瓶の素材はどうすればよいでしょうか?
- 揮発性移動相の脱気方法と再調製タイミングのコントロールをどうするのか。移動相の微妙な変化により価数分布の変化等により分析再現性が低下する。
- 水系移動相に0.1%ギ酸が良く使われますが,スクリーニングなど多数化合物を扱う場合,化合物の保持が安定しやすい0.2%ギ酸含有5mM酢酸アンモニウムが良いと聞きました.今のトレンドとしては,「0.2%~」が主流なのでしょうか.酢酸アンモニウム,ギ酸アンモニウムの使い分け方についてお聞きしたいです。
- 塩基性化合物は、オートサンプラーのインジェクションループやニードルに吸着しないのでしょうか?
(MSに関する質問)- SRMで測定していますが、サンプルを測定してもブランクを測定しても、analyteと異なるRTおよびanalyteと同じRTにピークが見られます。binary測定です。移動相の汚れ、キャリーオーバー、ブランクサンプルの汚れなどが原因でしょうか?また、原因を特定する方法があれば教えてください。
- SRMで定量分析しています。binary測定です。analyteと同じRTにゴミピークがあります。リテンションギャップによりRTがずれますが、ゴミピークのピーク形状はanalyteのピークに比べて明確にブロードです。移動相にanalyteが入ってしまっているのではなく、SRMが同じ汚染物質が入っていると理解すべきでしょうか?
- SRMで定量分析しています。Transitionが異なるとベースラインが数十倍異なります。ベースラインが高い場合は、定量イオンの変更を検討すべきでしょうか?移動相やLCのラインは念入りに汚染を防止しているつもりです。
- ESIでbinary測定する際、programの最後の方で有機溶媒組成を100%にしています。水を少し入れておくべきでしょうか?
(LCに関する質問)- LCで内径0.13 mmの配管と0.18 mmの配管でピーク形状を比較しても差が分かりませんでした。カラムは、2.1x75 mm, 2 umのODSです。流速は0.5 mL/minです。ピークの広がりの主な原因が分離カラムということでしょうか?
- LCの配管の接続についてです。いろいろな規格の物があって分かりません。取り付け方なども異なるのでしょうか?
- HILICのカラムについてです。RTが不安定です。原因として考えられることがあれば教えてください。
- HILICモードだと分離が今ひとつです。よい解決策はないでしょうか?また、移動相の考え方を教えてください。ODSなら分かりやすいのですが。。。
- LCのカラム平衡化時に、流速を少し上げてしまっても問題ないでしょうか?
- 新品のカラムは、どのようにして洗浄するのがよいでしょうか?bleedingや粒子の排出が心配です。現在は、使用するpHの水/MeOH、使用するその他の有機溶媒でそれぞれ数時間ずつ洗浄しています。
- リテンションギャップに用いるカラムの長さの選定はどのように考えればよいのでしょうか?カラムが長すぎると分析カラムの平衡化時間が長くなってしまいそうですし、短すぎればギャップが狭くなってしまいそうです。
- binary測定する際、スタートしてからしばらくは移動相組成を初期組成に保って分析した方がよいと聞いています。その理由はどのような理由でしょうか?また、どの程度保つべきでしょうか?
- LC/MS/MS測定で一斉分析を行っております。アナライトをLCで分離させる際のアイソクラティックおよびバイナリ―の条件検討の仕方やコツなどがあれば教えてください。また、アイソクラティックで分離ができたうえで、測定時間短縮のためにバイナリ―を検討する際の方法やコツなどがあれば教えてください。
- 課題は複数のターゲット(反応生成物)を検出する系を構築することです。概ね化学性の似たもの同士10種くらいを分離検出します。化学性が似ているだけに、溶出時間も似ています。あちらとあちらを分離させる条件では、こちらとあちらが重なり、とみんなをそれぞれ分離するのは単純には不可能だと思えます。m/zでマスクロ描かせる分にはそれぞれのm/zでマスクロは描けるので多少重なっていてもいいのですが、部分的に溶出が重なったものが同時にイオン源導入されているだろうな、と思います。大して深刻なわけでもないのですが、たとえばクヲタナリーポンプでLCの1回のラン中に逆相グラジエント中の溶離液(水系)をギ酸からTFAに変えたりしてみるというのはポンプ性能と平衡化の観点からできると思いますか?平衡化されていないカラムが溶媒に対し非平衡になってる不安定な条件での溶離を目指すのは間違ってるでしょうか?(不安定なことすると再現性が保たれない?)
(サンプルの前処理に関する質問)- SPEでサンプルを処理する際、脱離前に純水を5 bed volumeくらい通水しています。何か少し有機溶媒を入れるべきでしょうか?
- サンプルのろ過についてです。溶媒やアナライトの性質と材質との関係でどのようなメンブレンフィルターを選ぶかを決めるべきだと思うのですが、詳しく解説していただけないでしょうか。
- SPEで濃縮・精製したサンプルの溶媒を転換しています。窒素ガスの吹きつけで溶媒を揮発させています。回収率を高くするコツがあれば教えてください。
- SPEでsoak timeを設けて脱離しています。soak timeを設けるタイミングは、どのように考えるべきでしょうか?1 bed volumeくらい脱離液を供給してからでしょうか?
- スチレン-ジビニルベンゼン共重合体樹脂のSPEで6-クロロニコチン酸を分析したら回収率が非常に低くなってしまいました。pHは中性のままです。多成分一斉分析なのですが、pHを低くするべきか、ミックスモードの樹脂を選択すべきか迷っています。
以上がアンケート結果です。
質問をお送りいただいた皆様、ありがとうございました。
*本ワークショップは,MSSJ理事会内の企業プログラムWGメンバー に加え,以下の方々のご協力を得ながら企画・開催してまいります.
ワークショップ協力者(敬称略・五十音順),所属
- 江崎達哉,
- 日本ウォーターズ (株)
- 柴田 猛,
- (株) エービー・サイエックス
- 芹野 武,
- アジレント・テクノロジー (株)
- 田村 淳,
- 日本電子 (株)
- 福田宏之,
- アジレント・テクノロジー (株)