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第123回 関東談話会講演会

質量分析法を利用したジヒドロ葉酸還元酵素の水素/重水素交換の研究

山本 竜也 (広島大院理)
 

 蛋白質の構造と機能の関係を知ることは、生命現象の解明だけにとどまらず、医療や創薬への応用につながるため多くの注目を集めている。しかしながら、X線結晶構造解析やNMR等の構造解析法ではそれらの問題を解決するには至っていない。蛋白質の高次構造は、水素結合、静電的相互作用、疎水性相互作用など極めて微小な安定化力で維持されており、外界からの熱エネルギーで常に揺らいでいる。その中には原子間の熱振動やアミノ酸側鎖の回転のようなミクロ空間での速い運動から、ヒンジモーションや局所的なアンフォールディングといった比較的遅い大きな構造変化まで、時間的にも空間的にも多くの階層性が存在し、蛋白質の機能の発現や制御においてそれらの揺らぎが重要な役割を演じている。
  そこで我々は大腸菌由来ジヒドロ葉酸還元酵素についてH/D交換反応を行い、それに伴う質量増加を質量分析法を用いて検出することによりその揺らぎ情報を検出した。またリガンド結合とアミノ酸置換による揺らぎへの影響を定量的に解析することで、構造-機能の関係に対する揺らぎの役割を考察した。その結果、機能に対する揺らぎの重要性と必要に応じたその変化が顕著に観測され、二次構造や疎水性相互作用といった観点から様々なことがわかって来た。本研究は質量分析法における高次構造解析の可能性と今後の構造-機能の研究において重要な足掛かりを与えるものである。